夜の帳(よるのとばり)
- 雪山ゆき
- 2019年1月5日
- 読了時間: 3分
更新日:2021年8月9日
帳(とばり) 女の子。18歳。
夜乃(よるの) 青年。19歳くらい。
帳「私ね、」
夜乃「うん。」
帳「私、小さい頃から、ずっとずっと、生まれ変わったらなりたいものがあったの。」
夜乃「何になりたかったの?」
帳「魔導士」
夜乃「面白いね。」
帳「そう?」
夜乃「普通の子は、なかなか言わないんじゃないかな。」
帳「たぶん、小さい頃から、魔法使いの本とか、そういうの好きだったからかな。
ずっと、ずっとずっと、憧れていたんだ。」
夜乃「そうか、帳は、昔から、そういうのが好きだったんだね。」
帳「占いとか、不思議なものが好きで、だからかな。夜乃に惹かれていったの。」
夜乃「どういうこと?」
帳「夜乃って、不思議じゃない。」
夜乃「どの辺が?」
帳「空気?っていうのかな、雰囲気が。」
夜乃「そうかな、気のせいだよ。」
帳「だって、夜乃って、魔法みたいに綺麗で、澄んでいるのに、誰にも見られないじゃない。」
夜乃「綺麗とか、そういうのかどうかは分からないけど。誰にも見られないって?」
帳「こんなに素敵なのに、歩いていても、誰も振り返らない。」
夜乃「綺麗じゃないからだよ。」
帳「綺麗だよ。」
夜乃「そうかなあ。」
帳「そうだよ。」
夜乃「綺麗な奴は、もっと違うと思うんだ。僕は、悪い奴だよ。」
帳「ねえ、夜乃、一緒に行った、公園あったの、覚えてる?」
夜乃「覚えてるよ。」
帳「お花がとっても綺麗で、噴水とベンチがあって。まるで夢みたいだった。」
夜乃「夢、みたいか。」
帳「夢、だった。」
夜乃「・・・。」
帳「夢、だったんだよね?」
夜乃「どうしてそう思うの?」
帳「あの公園、名前、わかる?」
夜乃「・・・。」
帳「あんな公園、なかったんだよね。」
夜乃「そう、かな。」
帳「私が小さい頃に、思い描いた、いつか夜乃みたいな素敵な人と行きたいなって思ってた公園。
そのままの公園だった。」
夜乃「そう。」
帳「まるで、魔法みたいな公園だった。」
夜乃「魔法、か。」
帳「ねえ、夜乃。」
夜乃「なんだい?」
帳「夜乃と、はじめて会ったときのこと、思い出せないや。」
夜乃「・・・。」
帳「ねえ、夜乃。夜乃はいつからそこにいたの?いつからそばにいたの?」
夜乃「ずっと、だよ。」
帳「ずっといてくれた。でも、いつから?思い出せないの・・・!ねえ、あなたは、誰なの?」
夜乃「・・・君がずっと思い描いていてくれた。素敵な、とっても素敵な魔法。
本を読んで、憧れてくれた魔導士。・・・・・・嬉しかった。」
帳「うれし、かった?」
夜乃「僕を必要としてくれる子がいた、人間に忌み嫌われ、おとぎ話の存在になった僕を、
憧れて、素敵だと、綺麗だと言ってくれた。」
帳「夜乃。私は、私は・・・!」
夜乃「だから、僕はね、帳。君の何かになりたかった。そばにいたかった。
この嬉しいっていう、あったかい気持ちをくれた、君のそばにいられるだけでよかったんだよ。」
帳「・・・これからも、そばにいてくれる?」
夜乃「・・・僕はね、欲張ってしまった。君と共に過ごしたいと。
君と共に生きたいと、生きていきたい、触れていたい。
沢山の気持ちがあふれてしまって、どうしようもできなくなってしまったんだ。」
帳「私も、あなたと生きたい。ねえ、夜乃。私たち、一緒ね。心まで一緒。」
夜乃「そうだね、君の笑顔が好きで、近くで見たくて、見ているだけで、良かったのに。」
帳「夜乃・・・?」
夜乃「・・・・・・・さようなら。」
帳「・・・・・・あれ、私、誰と話していたんだっけ。」
夜乃「君が気づかなければと、ずっと思っていた。魔法は、気づいたら、とけてしまう。
おとぎ話とおんなじだ。だから、帳、僕らは終わってしまったんだよ。
夢見る少女は、魔法に憧れた君は、もう、眠る時間だ。
僕を忘れて、魔法も、魔導士も忘れて、綺麗で素敵な大人になるんだよ。
おやすみなさい。」
夜乃「こうして、夜の帳は下りる。」
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