こんな2人がいても、世の中いいのかもしれなかった。
- 雪山ゆき
- 2019年1月9日
- 読了時間: 5分
椎(しい) 女性。10代後半。歳の割に幼い感じ。
秋(あき) 男性。10代後半。大人しめの中二病が終わらない。
秋「・・・椎、入るよ。」
椎「んー?なんだ、あっきーか。いらっしゃーい。」
秋「何してるんだ?」
椎「オセロ。リバーシとも言うのかな。ちょっとはまってるんだー。」
秋「ふーん。椎がそういうのに興味持つなんて意外だな。
で、誰と対戦してるんだ?CPU?」
椎「私だよ。」
秋「ん?」
椎「だから、今、私と戦ってるのー。」
秋「・・・詳しく説明をお願いしても?」
椎「あっきーってそういうとこ、お馬鹿さんだよねー。しょうがないなあ。
教えてあげなくもないけどなあ、でもタダで教えるのも癪だなあ。
なんかしてほしいなー。なんかほしいなー。なんか甘いものほしいなー。」
秋「・・・・・・なんでこいつはこんなに調子に乗っているんだろう、と思わず考えてしまった僕は、
おかしい人間に分類されるんだろうか、いや、されない。(小声」
椎「されるされるー!!おっかしいなあー!こーんなに可愛い女の子にそーんな酷いこと言うなんて!」
秋「・・・なんで聞こえてるんだよ。」
椎「聞こえてるよー。そんなモノローグ風?に言われましてもー。こんな近距離にいるんだもん。」
秋「顔が近い。離れろ。」
椎「ふふふー。なーに?照れてるの?」
秋「照れてないです。」
椎「まあいいや、それでオセロの話だっけ?あのね、私対私、で勝負してるの。」
秋「あー・・・。つまり、黒も白も椎ってこと?」
椎「そうそう!先手、黒、椎ちゃんが今がんばってるねー。優勢だねー。」
秋「いくら友達いないからってそんな寂しい且つ痛いことしなくても・・・。」
椎「痛くも寂しくもないよ。失礼だね。」
秋「友達がいない、というワードを否定しないこいつはひょっとしたら自分のことを、
客観的に、冷静に見れる人間なのかもしれなかった。(小声」
椎「いや、だからそうやって言われましても。」
秋「なんで返事するんだ。」
椎「聞こえてるからねー。心の中で呟いてるっぽく言われても、声に出して発音した時点で。」
秋「それで、ええと、なんで一人でオセロ?リバーシ?してるんだよ。」
椎「必ず自分が勝てるでしょ?」
秋「なるほど、こいつは勝利することによる優越感を味わいたいのか。
しかし、それは同時に自分が敗者にもなっているのではないのか?という疑問を持った僕は、
間違っているだろうか、いや、間違っていない。」
椎「うるさいなー。そうそう、なんでまた私なんかの部屋を訪ねてきたの?あっくん。」
秋「そろそろ、たまってる頃かと思って。」
椎「ゴミ?」
秋「うん。」
椎「最近ジュースは控えてるから、ペットボトルはないよ。ボンキュッボンに憧れるお年頃だからね。」
秋「じゃなくて、違うほうの。」
椎「あー。あれか。忘れてた忘れてた。ベランダのちっさい倉庫。いつも通りあそこ。」
秋「自分で捨てろよな・・・。毎回、処分する僕の身にもなって欲しい。」
椎「とか言って?案外、私の役に立てて嬉しかったりしなかったり?」
秋「しなかったり、のほうだ。」
椎「えー。秋太郎ひどいー。けちー。はげー。」
秋「僕はそんな名前じゃないし、けちでもはげでもない。」
椎「でも将来は?」
秋「はげない。・・・怒るぞ。」
椎「ごめんってー。許してー?」
秋「はいはい。」
椎「はい、は、一回。」
秋「はい。」
椎「それでねー。ちょっと困ったことになっちゃってるの。」
秋「何が?」
椎「ゴミが。」
秋「・・・そうか。」
椎「でもさー。私的に?椎的に?椎ちゃん的に?結構がんばったんですよー。
我慢してるのー。でもおなか減るよねー。」
秋「そうか。お前って、どうしてそう、人間をばらしたくなるんだ?」
椎「んー。なんでだろうねー。世間でいうとこの、殺人衝動的な?」
秋「・・・僕をばらそうとは思わないのか?」
椎「んー。あんまりおいしくなさそう。」
秋「そうか。」
椎「とにかくさあ、人をばっらばらにしないと、おなか減って減って、もうヤバいんだよねー。」
秋「・・・とにかく、今回の分のゴミ、適当に処分するけど、できるだけ我慢しろよ。
人間は確かに世界にあふれているけど、だからって、消えても何も問題がないわけじゃないんだ。
むしろ、すぐ警察とか、家族とか、そういうのが動いて、捜索しはじめる。気をつけろよ。」
椎「はーい。」
秋「はい、は短く。」
椎「はい。」
秋「・・・なあ、椎。」
椎「なにー?もう帰るのかと思った。」
秋「僕、お前がうらやましいよ。」
椎「ほうほう。続けて。」
秋「僕も、おなかが、減る。」
椎「それは、あれかな?人をバラバラにしたいよーってやつかな?」
秋「違う。いや。近い。近いけど違う。」
椎「んん?どういう意味か教えておくれ。」
秋「僕は、大事なものを、壊したくて壊したくてバラバラにしたくて解体したくて、たまらない。
・・・大事なものを想う自分を消すために、バラバラにしたいって思うんだ。
大事なものを想う自分が気持ち悪い・・・。
一体なんで大切なんだろう。どこが良いんだろう。そう思って、バラバラにすればなんとなく、
なんとなくだけど、楽になって、色々わかって、スッキリする・・・。
そう、スッキリする気がするんだ。」
椎「ふうん。私とはまたちょっと違う感じだね。そうなんだ。大変だね。」
秋「だから・・・。・・・椎、お前を、解体したくなってることに気が付いた。」
椎「お?」
秋「お前を、バラバラに、したい。」
椎「それってさー。」
秋「なんだよ。」
椎「愛の告白ってやつぅー?」
秋「そうなのかな、わからない。わからない僕は壊れているのかもしれない。」
椎「いや、壊れてない。」
秋「そうかな。」
椎「そうだよ。」
秋「もう、ダメなんだ。気づいたら抑えられなくて、お前を、すごくすごくすごく、バラバラにしたい。」
椎「ふうん。それはなかなか良いかもしれないね。」
秋「どこがだよ。僕は苦しんでいるんだ。」
椎「私がお腹減るときってさー、相手に興味持って、それでおなかが減って、バラバラにするって感じなんだけど。」
秋「初耳だな。」
椎「あ、あの子の鞄可愛いなあ、素敵なセンスだなー。からの、バラす。
あのおじ様の香水、不思議な匂いだなー。どこで買ったんだろー。からの、バラす。」
秋「なるほど。」
椎「ねえねえ。」
秋「なんだよ。」
椎「・・・はじめて、秋くんに、興味持っちゃった。」
秋「・・・今まで興味なかったのかよ。」
椎「うん。だからさ、こうしよう。」
秋「うん?」
椎「秋くんは推理小説って読むかな?」
秋「読まないな。好きじゃない。」
椎「んー。じゃあさ、こういうの、知らない?登場人物、Aさんと、Bさん。
事件現場には、AさんとBさんの死体。さあ、誰が犯人?」
秋「語り部。」
椎「いや、そういう叙述トリック的なのとかは良いよ。それは違う。」
秋「じゃあ、そうだな。・・・AとBが刺し違えたっていうか、相打ちっていうか。」
椎「まあ、そんな感じ!だからさ。
・・・私と、それをしよう。」
秋「なるほど。・・・なんでそうなった?」
椎「だって、2人ともお互いをバラバラにしたいんでしょ?じゃあ、お互いをバラバラにして、
まあ、くたばろう。世間的にも、ヤバい殺人衝動持った奴が消えて、超ハッピー。
私、ハッピー。秋くんハッピー。ハッピーエンドだよ。」
秋「なるほど、名案だ。」
椎「でしょでしょ?」
秋「じゃあ、」
椎「はじめますかあ。」
秋「こんな2人がいても、世の中いいのかもしれなかった。」
椎「いや、よくないよね!?」
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