夏の彼方に

◆登場人物

奈香

男性

子供

奈香　・・・ん・・・あれ、ここは何処だろう？

　　　　　　私、何してたんだっけ・・・。ん・・・。

　　　　　　　　ＳＥ（蝉の鳴き声）

男性　大丈夫ですか？

奈香　え？わああっ！・・・ってあれ、ここは・・・？

男性　意識ははっきりしていますか？大丈夫ですか？

奈香　え、はい、大丈夫です。ええと、あなたは？

男性　怪しいものではありません。・・・何があったか覚えてませんか？

奈香　あ、はい・・・。どうして私、寝てたんでしょうか？

男性　ここの公園を通りかかったとき、

貴方が倒れているのを見つけまして。

ベンチまで運ばせて戴きました。

奈香　そうだったんですか・・・ありがとうございます。

　　　何も覚えてないや・・・。

男性　・・・きっと、軽い熱中症でしょう。今日は一段と暑いですから。

奈香　そうですね。家に帰って、水分とって寝ます。

本当にありがとうございました。

男性　・・・夏場は色々ありますから、お気をつけて。

では、失礼します。

奈香　ふう・・・。それにしても、不思議な雰囲気の人だったなあ。

まあいいや、帰ろ。

　　　　　　　　ＳＥ（がやがや）

奈香　今日はお祭りだっけ。こどもがいっぱいで可愛いなあ。

子供　・・・ひっく・・・ひっく。

奈香　あれ、子供が泣いてる。あの格好・・・不思議な浴衣・・・。

子供　ひっく・・・ぐす。・・・あ！あの・・・っ！

奈香　え？ど、どうしたの？

子供　まる！

奈香　はい？

子供　まる！白くて小さいまる！見ませんでした？

奈香　白くて小さいまる・・・？うーん、見てないなあ。

子供　そうですか・・・。何処いったんだろう・・・。

奈香　落としちゃったの？

子供　はい・・・。あれがないと・・・おうちに帰れない・・・。うう・・・。

奈香　ああああ！泣かないで！そうだ！

お姉ちゃんが一緒に探してあげる！

子供　本当？

奈香　うん！どのくらい小さいの？

子供　このくらい。

奈香　うーん、わりと小さいなあ。

子供　遊んでたら、転がっていっちゃったみたいで・・・。

奈香　なるほど。このあたりなの？

子供　うん。

奈香　じゃあ私はこっちを探すから。

子供　ありがとう、お姉ちゃん！

　　　　　ＳＥ（鴉の鳴き声）

奈香　もう随分探してるけど・・・見つからないなあ。

子供　やっぱり、もう見つからないのかな・・・うう。

奈香　大丈夫だよ！頑張って探そう！ね！

子供　うん。

奈香　ところで、その、白いまる？どんなものなの？

子供　つやつやしてるんだよ！それで、きらきら！

真ん中がちょっと黒っぽい！

奈香　んー、ビー玉みたいなものかなあ。

子供　うん！大切なんだ！

奈香　そうなんだ。じゃあ絶対見つけなくちゃね！

子供　でも、こんなに探してもないなんて・・・。

奈香　そうだね・・・。何か代わりのものじゃダメなの？

子供　うーん・・・いいけど・・・。

奈香　あんまり遅くなったらお母さんが心配するかもよ？

　　　　　　ビー玉、確かに宝物かもしれないけど、今日は諦めて・・・。

子供　ビー玉じゃないよ！

奈香　え？

子供　目！

奈香　目？

子供　うん！目！

奈香　目？

子供　うん！目玉！

奈香　目玉・・・？

子供　ほら、見て、目玉、二つしかないでしょ？

奈香　・・・うん。

子供　ね？

奈香　どういうこと？

子供　あ、言い忘れてたね！僕、三つ目の妖怪！

みっちゃんって呼んでください！

奈香　よ、妖怪！？何言ってるの！？

子供　え？

奈香　え？

子供　え？もしかしてお姉ちゃん、人間？

奈香　う、うん。

子供　えー！！人間なの！？

だからそんなにちんたらしてて無能そうなんだ！

奈香　ち、ちんたら！？無能！？

子供　やってらんないよー。人間だったなんてさー。

奈香　なんか態度変わってる・・・。

子供　ほら、さっさと探せよ！無能な人間！

奈香　あ、はい。

子供　肩こったなー。肩もめよ！ちんたら人間！

奈香　え、ええ！？

子供　さっさとしろよ！ぽんこつ人間！

奈香　は、はい！

子供　それにしても・・・目、どうしようかなあ・・・。

奈香　あ、あの。

子供　んだよ！しょぼしょぼ人間！

奈香　あのね！私には奈香って名前が・・・！

子供　あ、そうだ。

奈香　ん？

子供　人間、お前の目玉あるじゃん。

奈香　は、はあ。

子供　よこせよ。

奈香　はい！？

　　　　Ｍ１（

子供　だから、お前の目玉一つよこせよ。

奈香　な、何言って・・・。

子供　お前のでがまんしてやるっていってんだよ。

奈香　いや、だって、ほら、私、視力よくないし・・・。

子供　視力いくつだよ？

奈香　１.２・・・。

子供　問題ない問題ない！

奈香　あの、でも、えっと・・・。

子供　うるさいなあ！

奈香　！？

子供　さっさとよこせって言ってんだよ！

奈香　た、助けて！きゃああああああああ！

　　　　Ｍ１（ここまで）

　　　　　ＳＥ（蝉の鳴き声）

奈香　・・・ん・・・あれ、ここは何処だろう？

　　　　　　私、何してたんだっけ・・・。ん・・・。

男性　大丈夫ですか？

奈香　あれ・・・？

男性　どうされました？

奈香　私・・・あなたにどこかで・・・？

男性　気のせいです。全ては悪い夢だったんですよ。

奈香　は、はあ。

男性　さあ、早く帰ったほうがいいですよ。

もう暗いですからお気をつけて。

奈香　あ、ありがとうございます。・・・なんだったんだろう？

男性　・・・危なかった。

もう少し遅ければ、彼女はあの奇妙な化け物に襲われていた。

　　　最近このあたりにはあのたぐいの輩が多い。

私も気を引き締めてかからねば。

　　　　　　　　ＳＥ（虫の鳴き声）

奈香　よく分からないけど、とりあえずかえろ。なんだか気分も悪いし。

子供　ひっく・・・ひっく・・・。

奈香　あれ？子供が泣いてる？

子供　うう・・・お姉ちゃん・・・。

奈香　どうしたの？ぼく、お母さんは？

子供　お母さんのところに・・・帰れないの・・・。

奈香　大丈夫？私に出来ることならなんでも言って。

子供　じゃあ、奈香・・・目玉ちょうだい。